会社のこれからの道しるべとなる
500億円規模の予算を策定する。

内山 実希Uchiyama Miki

2017年入社
文学研究科 歴史文化学専攻 修了
京阪電気鉄道(株) 経営企画部 経営計画担当 スタッフリーダー

いろいろなことに興味を持ちやすく、
「ハマったら即行動!」が信条です。
ふだんはインドア派ですが、テレビで観た男子バレーに感動し、
翌週には他県まで試合を観に行き、東京五輪も当選!
ハマったときの熱意と行動力には自信があります。

経営会議の場で新人が月次報告。
内山を驚かせた「任せる風土」。

大学で鉄道史を学んでいたことから、鉄道の現場配属を希望していた内山は、配属先を聞いて耳を疑った。命じられたのは、京阪電鉄の経営企画部。今後、鉄道事業が何をしていくのかを検討する、いわば経営の中枢を握るシンクタンク部門だ。現場を何一つ知らない自分に務まるのか? そう自問する間もなく、内山はいきなり月次の運輸収入の分析を任された。毎月、運輸事業で得た収入について、天候、災害、沿線でのイベントといった関連要因をからめて分析し、経営層が出席する会議の場で報告するのだ。
経営判断の基礎となる資料を新入社員の自分が担当するのだから、京阪の「任せる風土」にも驚かされる…。そう思っていると、入社2年目、さらに内山を驚かせる出来事が待っていた。すぐ上の先輩が退職したことにより、「次年度運輸収入予算の策定」を任されたのだ。実はこの仕事、1年目のときにサブ担当としてからんではいた。メイン担当の先輩を手伝いながら、「いつか自分も担当しないといけないのかな…、できる気がしないけど」などとぼんやり考えていたところ、翌年、その「いつか」が突然訪れた。
500億円もの予算を入社2年目の自分が? 依然としてできる気はしないものの、やると決めたらやる性分。「同じやるなら、とことんやってやる」と腹をくくった。

社内外の関係者全員が「妥当」とする
ジャストな数値を導き出す。

次年度運輸収入予算の策定とは、その名の通り、次年度、運輸収入がどれくらい見込めるかを割り出す仕事だ。一度はじき出して公表すると、それが一年間ついてまわる。月次報告の数字も必ず、「対前年」に加えて「対予算」で見て分析し、それを内山自身が社長に報告することになる。予算と実績に大きな乖離が生じると、「どんな予算を出しているんだ!」と叱責も受けかねないが、実はもっと深刻な事態を招く。
毎年、会社は期前に出す予算に応じて、改札機の更新や新車両の導入といった投資プランを決める。おおもとの「財布」に予定していたお金が入ってこなければ、投資プランは暗礁に乗り上げ、お客さまへのサービスにも影響する。

また、予算によって株主も動く。実績が下振れするような予算を立てると「予算を達成できない会社」という烙印を押され、かといって低めの予算にすると「成長意欲のない会社」と見られてしまう。下振れでも上振れでも、京阪の信用問題にかかわるため、社内外の関係者全員が「妥当」とするジャストな数値を導き出さなくてはならないのだ。
責任は重大だが、やるしかない。内山は予算を構成する3つの要素について、それぞれ検討を始めた。月次収入を再度見直す「今年度の分析」、予算に影響を及ぼしそうな「次年度以降の会社の施策」、そして少子高齢化やインバウンド需要などの「周辺環境の予測」。鍵を握るのは2つめ、3つめの要素が予算にどれだけ影響するかの見極めだ。内山はまず、過去の似た事例を洗い出した。沿線に新たに建てられたオフィスビルの通勤需要から、消費税増税の影響まで。おおよそ100年の間に蓄積された実績データと照らし合わせ、変化の規模や状況を比較しながら、予算に反映していった。

かつてなかった分析アプローチ。
自分自身が納得のいく数字を求めて。

それでざっとした予算は出た。しかし精度はといえば、自信がもてない。もっと説得力のある数字の根拠が必要だ。誰もが納得するロジックを組み立てなければ…。内山は、分析の量もさることながら「質」を追求し始めた。
試みたのは、これまでになかったアプローチによる分析だった。単純に駅の乗降客数だけを見るのではなく、どの駅から乗ってどの駅で降りているのか、駅と駅の関係性を分析した。それにより、会社の施策や周辺環境が影響する先を、さらに高い精度で割り出した。
また、これまであまり使ってこなかった高度な分析ツールを活用し、京阪電車のお客さまが鉄道他社の何駅から乗車したのかといったデータまで追いかけた。さらには、関西の電鉄各社の統計関連担当者が集う会合に出席し、「インバウンド需要をどう見ている?」など各社が共通で抱える検討事項について意見交換し、検討に加味した。そしてもちろん、課内ミーティングでの議論もしかり。
そうして内山は次第に予算の精度を上げていった。「ここはこの数字でいいのか?」「これは、こういう根拠に基づいて出している」「果たして本当にそれで正しいか?」、そう自問自答を繰り返しながら、少しでも疑念を差しはさむ余地のある数字はあらためて精査した。
手を抜こうと思えば、いくらでもできる。。しかし、内山はそうしなかった。どこまでやるかが担当者の裁量に委ねられるからこそ、自分が納得するまでやる──。それは内山の信念ともいえる仕事の流儀だった。

予算を立てた期がスタート。。
まさかの誤差「0.0数%」という的中率。

2019年2月、次年度運輸収入予算の策定が締め切りを迎えた。ゴールが見えない作業のように思えた仕事が、終わった。内山は自分が組み立てたロジックとともに、上司、そして経営層に予算の数字を説明し、無事に承諾を得た。
予算の策定自体は終わったが、4月からは予算と実績にブレがないかを見られる「答え合わせ」ともいえるフェーズが始まる。予算は当たるのか、はずれるのか。内山は胃が痛くなる思いだったが、そんな内山の心配をよそに、月々の運輸収入はほぼ予算通りに推移した。しかも、ある月は誤差「0.0数%」というあり得ない的中率をたたき出した。

内山は、それまでの苦労が報われたような気がしてうれしかった。周囲からも折りにふれて「いい予算だ」と言ってもらえ、がんばった甲斐があったと胸をなでおろした。
入社当初は鉄道の現場配属を希望した内山だったが、今は現場こそ見てはいないものの、全駅の状況を把握し、鉄道事業全体を俯瞰で見ることができている。また、自分が分析した結果が会社の経営判断の基礎となり、次年度の施策に生かされることに、大きな責任感とやりがいを感じている。
このままいくと、翌年もまた次年度運輸収入予算を任されることになるだろう。次は、上司はもとより、経営層、株主、あらゆる関係者がさらに納得できる妥当な予算を導き出したい。「まあ、当たるかどうかは神のみぞ知る、ですが」、そう言って内山は笑った。