洛北の知られざる魅力を伝える
コラボイベントを立ち上げる。

品川 雄紀Shinagawa Yuki

2014入社
総合政策学部 メディア情報学科卒
京阪ホールディングス株式会社 経営統括室 事業推進担当(観光共創)

学生時代に海外に興味を持ち、
アジア・ヨーロッパ・アフリカなど10カ国以上へ訪れました。
そうした経験で得た「新しいことにチャレンジする面白さ」や
「いろいろな人と関わることの楽しさ」を忘れずに
仕事にも取り組むように心がけています。

ミッションは「洛北エリアの活性化」。
かつてない画期的な施策はないか?

叡山電鉄、通称「えいでん」。2019年9月のとある週末、えいでん叡山本線の終着駅である八瀬比叡山口駅は、年齢問わず訪れた人々でにぎわっていた。軒を連ねるたくさんの露店。アコーディオンの陽気な音色。絶品フードに舌鼓を打ったり、スケッチのワークショップを楽しんだりと、思い思いに初秋の日を過ごす人々…。
この日、開催されていたのは「FANTASTIC MARKET in えいでん 八瀬比叡山口」。2018年より、毎年春と秋に開催されている人気イベントだ。その立ち上げを手がけたのが、当プロジェクトのリーダーを務める品川だった。
時は2017年にさかのぼる。かねてより京阪は、「京阪沿線の観光ゴールデンルート化」に取り組んでいた。これは、京都を代表する観光地、洛北~東山~伏見・宇治を結んで京都観光のゴールデンルートを確立しようというもの。その一環で、「洛北エリアの活性化」のミッションを与えられたのが、当時、経営統括室の観光共創担当に異動してきたばかりの品川だった。

品川はさっそく、外部ブレーンの企画会社と一緒に、活性化の年間プランを練り始めた。なかでも品川が着目したのが、閑散期だった。桜と紅葉の名所で知られる京都は、その時期、国内外から膨大な数の観光客が押し寄せる。しかしその直前は、訪れる人が少ない。ここで何か集客できるイベント策を打てないか…。企画会社と議論を進めるなかで出てきたのが、「マルシェ」だった。もともと企画会社が持っていたパッケージ企画「FANTASTIC MARKET」を、洛北らしいアレンジを加えて開催することによって、洛北の魅力を知ってもらおうと考えた。会場は、洛北でも自然が美しいとされる八瀬。せっかくなら京阪らしく鉄道施設を利用しようと、開催地は八瀬比叡山口駅を候補に挙げ、翌年春に開催する前提で、早々に企画書をまとめて社内と叡山電鉄に話を通した。
あっという間に話が進み、開催日も正式に決定。気がつけば、開催日まで4カ月を切っていた。京阪初のイベントをわずか4カ月で仕上げる。品川の挑戦が始まった。

開催日まで待ったなし。
理想を追求し、そこに現場を近づけていく。

まずはイベントの内容からだった。フード関連の出店店舗についてはネットワークを持つ企画会社に任せ、それとは別に八瀬ならではのオリジナル企画を練った。八瀬比叡山口駅は比叡山ハイキングの玄関口であることから、どちらかといえば年配のハイカー利用が多い。そこに、子どもや若い女性などふだんは八瀬を訪れない幅広い層の人々を集めたいと考えた。それなら、子どもも楽しめるワークショップや、若者が足を運びたくなるような音楽ライブをやろう。わくわくするようなアイデアが次々と出てきた。企画会社と一緒になって案を出し合うことで、京阪だけでは決してできないおもしろいイベントの構想がかたちになっていく。「これが実現すれば、人は必ず来てくれる」、品川は手ごたえを感じていた。
一方で品川は、実現に向けた大きな宿題を片づける必要があった。叡山電鉄との調整である。どんなにすばらしい企画でも、運営上問題があれば実現はできない。鉄道会社の設ける厳しい安全基準をクリアするのは大前提。さらに、費用面、スタッフ面など、乗り越えなければならない壁はいくつもある。叡山電鉄としても、安全面はもちろん、「これなら大丈夫」と納得のいく運営プランでなければ当然GOサインは出せない。品川は叡山電鉄との話し合いを重ね、要望に一つひとつ耳を傾けながら、「ではこういうかたちではいかがですか?」と打開策を提案。そうして「実現したいこと」と「現場の事情」との溝をていねいに埋めていった。
ほかにも、ポスターやチラシ、パンフレットといった案内ツールの制作、広報リリースの手配、テレビや雑誌などのメディア対応と、さまざまな準備をほころびのないよう進めるうちに、怒涛の4カ月間はあっという間に過ぎていった。

当日、目の前に広がった素敵空間。
そして耳にした、お客さまのつぶやき。

「FANTASTIC MARKET in えいでん 八瀬比叡山口」当日の朝。駅のホームを飾る三角旗。すっかり準備を終えた露店に並ぶおいしそうなフードの数々。聴こえてくるアコーディオンの調べ。目の前に広がる素敵空間に、品川は胸が熱くなるのを抑えられなかった。「ここまでやってきて本当によかった」、そう思いながらの達成感が半分。そしてもう半分は、「果たしてお客さまは来てくださるだろうか」という心配が品川の心を占めていた。
その日、現地は春の訪れと言うにはいくぶん寒かった。天気も曇り。品川はこのプロジェクトの企画を通す際、会社側に動員目標数を提示していた。その目標が達成できなければ、マルシェ企画は1回で打ち切りとなる。それだけは避けたかった。繰り返し開催することによって、より多くの人々に八瀬の魅力を伝えることこそ、品川がやりたかったことなのだ。

そんな品川の想いが通じたのか、ポスターやチラシをご覧になったお客さまが開場前から並び始めた。そしてイベントはスタート。主ターゲットとしていた子どもや若い女性をはじめ、品川の予想を超えるさまざまな世代のお客さまがたくさんご来場され、八瀬比叡山口駅の会場は一気に盛り上がった。「まさかこんなにお越しくださるとは…」と、叡山電鉄の担当者もふだんとまるで違う駅の様子に驚きを隠せずにいた。
大にぎわいの会場を忙しく立ち回る品川は、ある若い女性のお客さまのつぶやきを耳にした。
「八瀬って、こんなところやったんやねえ。いいところやん」
これこそ、まさに品川がプロジェクト当初より聞きたかったひとことだった。

定番イベントへと成長したマルシェ企画。
次なる施策の仕掛け人をめざして。

「FANTASTIC MARKET in えいでん 八瀬比叡山口」は会期の2日間を終えた。動員数は目標を軽く達成。叡山電鉄には、洛北のPRにとどまらず、当日の乗降客数という点でも貢献し、「やってよかった」と喜ばれた。企画会社からは「次はもっとおもしろいものやりましょう」と言ってもらえた。京阪や叡山電鉄にとってはもちろんのこと、企画会社も鉄道会社と組んでマルシェを開催するのは初めての試みだった。最初は誰もが初チャレンジで不安を抱えていたが、それを乗り越え、最終的には関係者すべてが「またやろう」と思えるイベントにすることができた。
その後、「FANTASTIC MARKET in えいでん 八瀬比叡山口」は毎年春と秋に開催され、動員数は回を追うごとに増えている。企画もさらに充実し、とりわけ大人の雰囲気が漂う「NIGHT MARKET」は大人気だ。
この人気コンテンツのプロジェクトリーダー・品川自身は、なんとも不思議な心持ちで今の自分を見る。入社前は運転士や流通施設の販売といった仕事のイメージしかなく、まさか自分が社外の企画会社と組んで、こんなイベントの仕掛け人になるとは思ってもみなかった。とはいえ、それも品川の仕事のごく一部に過ぎない。ほかにも、雑誌やカード会社と組むなどして、海外からの観光客を誘致するインバウンド施策を推進している。「自分の携わった仕事で、実際にお客さまが動いてくださる」、そのおもしろさと喜びをさらに大きく実感するため、品川は今日も挑戦をつづける。