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こころまち つくろう 活動レポート

[こころまちつくろう 活動レポート Vol.40]自然を敬い、“いつも通り”を守りぬく。 ~自然と共生する安全へ、叡山電鉄技術課の現場~

出町柳から鞍馬、八瀬比叡山口へ。京都市内と洛北の絶景スポットを結ぶ叡山電車。緑豊かな山あいを縫って走る環境は、ときに厳しい自然と対峙することが求められます。2018年9月4日に近畿地方を通過した台風21号では沿線に大きな被害が発生し、全線運転再開まで約50日を要しました。当時の状況を振り返るとともに、過酷な自然とどのように共生し、日々の安全運行を支えているのか。現場の取り組みを取材しました。

歴史ある観光路線、鞍馬線は今年開通90周年

叡山電車の前身は、1888年に設立された京都電燈株式会社です。当時から広く信仰を集めていた比叡山への観光客の輸送と周辺に住む方の利便性向上をめざして、1925年に現在の叡山本線(出町柳駅~八瀬比叡山口駅)が開通しました。一方、鞍馬線は、1928年に当時の鞍馬電気鉄道株式会社によって山端駅(現:宝ケ池駅)~市原駅間が開通し、翌1929年に鞍馬駅まで延伸して今日の姿となりました。

その後、1942年に京都電燈株式会社の鉄道部門が独立して京福電気鉄道株式会社に、さらに鞍馬電気鉄道株式会社との合併を経て、1986年より叡山電鉄株式会社として営業しています。
今年は鞍馬線が開通してから90周年にあたり、さまざまなイベントが計画されています。

  • ■鞍馬寺
  • ■貴船神社
  • ■瑠璃光院
  • ■比叡山延暦寺

叡山電車の沿線には、洛北の豊かな自然を堪能できる観光スポットや有名寺院・寺社など見どころが数多く点在しており、世界中からお越しになる観光の方々や沿線にお住まいの方々にご利用いただいています。

叡山電車の安全を守る技術課

お客さまに常に安心してご乗車いただけるように、叡山電車の安全を担うのは技術課です。信号や架線を守る電気担当5名、軌道の整備を手がける工務担当7名、車両の安全を支える車両担当7名が、力を合わせて日々の点検・整備作業からトラブル対応までをカバーしています。少数精鋭部隊だけに一人ひとりが担う責務の比重は大きく、全員が責任者の気概をもって任務にあたる毎日です。朝のミーティングは1時間以上かけて行うこともしばしば。「ほう=報告・れん=連絡・そう=相談」を徹底し、安全に作業を行えるように努めています。年間の点検計画もしっかりと立てていますが、悪天候の場合は屋外作業ができません。天候が変わりやすい山間部を走るだけに気象情報も綿密にチェックするなど、準備を万全にして一日がスタートします。

山あい、単線ならではの苦労と奮闘する日々

鞍馬線は二軒茶屋駅~鞍馬駅間が単線のため、線路内で作業する際には特に列車の接近に細心の注意を払わなくてはなりません。複線であれば列車の進行方向は一方向でわかりやすいですが、単線の場合はどちらからも列車が接近するため接触事故の危険性が高まります。山あいではカーブが多く見通しが悪いため、列車監視員と作業員との連携が重要になります。列車の運行状況を常に確認しつつ、十二分に周囲に気を配りながら線路内での作業を行なっています。
さらに、山間部特有の苦難も待ち受けます。線路のすぐ両脇に山と樹木が迫り、風雨や雪が原因で線路内に倒木・落石が発生する恐れがあるため、当該区間には倒木や落石を速やかに感知し異常を知らせる検知装置を設置しています。一方、野生の鹿や猪、狸などの動物がその検知線を切ってしまうなど獣害も後を絶ちません。そのため、いつも線路内を歩き、異常がないかをプロの目と耳など五感をフルに使ってチェックしています。また、凍てつく冬には電車線に氷がつくことで列車が止まってしまうことも…。豊かな自然と隣り合わせている環境ならではの苦難と格闘する日々です。

台風21号による倒木被害とそのつめ跡

2018年9月4日に直撃した台風21号は甚大な倒木被害をもたらしました。当日は、午後2時に計画的に運転を休止。夕方、台風通過後の点検の結果被害が大きく、その日は終日全線で運転を見合わせるしかありませんでした。暴風雨がおさまった後に全線を詳しく巡回したところ、線路内におびただしい量の倒木があり、徒歩による通行すらできない区間がありました。とにかく木を取り除かなければどうにもできない。そこで、地元の林業関係者の方々に協力を仰ぎ、木を運び出せる大きさに切りどんどん搬出していきました。夜を徹した除去作業によって、何とか翌日には叡山本線全線、鞍馬線の宝ケ池駅~二軒茶屋駅間で始発より運転再開。さらに9月7日には17時より二軒茶屋駅~市原駅間で運転が再開できました。

一方、最も被害が大きかった市原駅~鞍馬駅にかけては、倒木が約180本、それによる電柱の倒壊が24本、その他設備の損傷が多数あり、復旧作業は困難を極めました。線路内の倒木を除去しても、斜面から新たな木が倒れ込んでくる状態。さらに斜面の上部にも倒木が数千本とありました。この状況では、いつまた倒れた木が滑り落ちて列車の運行に支障をきたすかしれません。斜面上部の木々をワイヤーで引っ張り、また、線路脇には防護ネットを張りめぐらせるなど、さらなる追加手段を講じなければなりませんでした。
そして、復旧作業の進捗に合わせて、少しでも運休区間を短くするため、運輸課との間で貴船口駅までの折り返し運転を検討しました。通常、鉄道は信号によって安全を確保しており、信号設備のない貴船口駅で折り返すことはできませんが、二ノ瀬駅~貴船口駅間は、信号代わりとなる人が二ノ瀬駅の信号扱い者からの指示により運転台に乗車し、その人が乗らない限り運行できないということで、安全を確保し列車を運行しました。こうして9月27日より市原駅~貴船口駅間の運転を再開。そして1ヶ月後の10月27日、貴船口駅~鞍馬駅間の運転を再開することができ、約50日ぶりに全線復旧がかないました。

大自然と共生する鉄道会社として安全に臨む

■青もみじ きらら(期間限定) ■LED照明 ■PCB不使用の変圧器

ひとたび自然災害が発生すると大きな被害をもたらす自然。しかし一方で、素晴らしい眺望や季節を映す美観の恩恵を私たちに与えてくれます。叡山電鉄では、周囲の自然との共存・共生をどのように捉え、安全運行につなげているのか。鉄道部技術課電気担当副班長の久保壮彦さんにお話を伺いました。

台風21号の被害を聞くと自然の脅威におののくばかりです。

「最近は気候変動の影響か、自然災害の規模が大きくなる傾向があるようです。それだけに想定外の事態が起こりうるとして、日頃から安全のための点検や整備を抜かりなく、また教育・訓練などにも社員が一丸となって取り組んでいます」

でも叡山電車が走る洛北は本当に自然の美しいところです。

「春は桃、梅、桜が咲き誇り、初夏から夏にかけては青もみじのみずみずしい緑にあふれます。秋は圧巻の紅葉、冬は純白の雪景色と四季を通じて美しい風景に出会えるのは自然の大きな恵みです。これからはちょうど青もみじの季節。今年は青もみじカラーの展望列車「きらら」を期間限定で運行しますので、青もみじのトンネルを走り抜けるすがすがしさを楽しんでいただけたら…と思いますね」

景観や環境にも何かと配慮されているのですよね。

「風致地区に指定されているエリアでは、駅舎が周りの景観に溶け込むよう屋根や庇をつけたり、木製であったり工夫しています。一方で山火事に備えて防火壁などを設けている箇所が多数あります。また、駅の照明はほとんどLEDに交換済みですし、変圧器はPCB※を含まない製品に更新するなど環境負荷の低減にも取り組んでいます」
※ポリ塩化ビフェニルの略称

叡山電鉄株式会社
鉄道部技術課電気担当副班長 久保壮彦さん

豊かで、しかし厳しい自然に取り巻かれた環境で安全をどう実現するのか。心構えをお聞かせください。

「叡山電車は、洛北の自然と共生する鉄道会社です。豊かな自然の雄大さをお客さまにお楽しみいただくために、観光列車や展望列車も運行しています。ただ自然災害が大規模化する時代、いかにお客さまに安全に安心してご利用いただけるようにするかが私たちの使命です。技術課は“変わりのない、いつも通り”を守るのが仕事。故障は未然に防いで当たり前です。それはともすれば達成感の得にくい業務でもあります。でも、厳しい自然と向き合いながら変わらない日常を守り、安全を支えるのは我々だという誇りを胸に業務にあたっています。先程まで晴れていたのに急に大雨に見舞われる。そんな自然を相手に、“いつも通り”を守りぬくこと。その追求にゴールはありません。常に変化に備え、学びを忘れず、経験を糧に技術や知識を次世代に伝えていく。やるべきことはたくさんあります。鉄道施設を守ることを通して、自然と共生しながら安全の実現に向け日々努力を重ねていきたいと思っています」

2019年4月掲載