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こころまち つくろう 活動レポート

[こころまちつくろう 活動レポート Vol.24]「絶対」を可能にするために。〜車輪への車軸圧入作業レポート〜

レールの上を走る車輪は、電車にとっての大切な「足」です。それだけに日頃から厳格な点検と保守は欠かせません。しかし毎日の運行によって傷んだ部分の補修を繰り返すうちに、10年ほどで新しい車輪に取り替える必要が生じます。今回は、そうした車輪取り替えの現場である寝屋川車両工場をたずねました。そこでは、機械の「70トンの力」と、1000分の1ミリ単位で調整を行う「人のちから」が、京阪電車の「安全・安心」を支えていました。

●踏面の削正作業で直径の小さくなってしまった車輪

踏面(とうめん)の削正作業を繰り返して直径の小さくなった車輪を新しくする

車輪の取り替えに至るまでを、もう少し詳しくご紹介します。レールと接する車輪面を踏面(とうめん)と呼びます。踏面には、レールと常に擦れ合うことや、車両の荷重がかかることによって少しずつ摩耗や小さな傷が生じます。安全性や快適な乗り心地のためには、踏面は常になめらかで均一であることが大切ですので、定期的に表面を削ってなめらかにします。この作業を繰り返していると、次第に車輪の直径は小さくなりますので、使用限度に達する前に車輪の交換が必要になるのです。今回は車輪を取り替える一連の作業のうち、新しい車輪に車軸を押し込む圧入作業を取材しました。

「絶対」の安全確保のために高圧をかけて車輪に車軸を圧入

工場内の現場には、新しい車輪と、車輪の内径より大きくなるようサイズ調整された車軸、それに「車輪圧入圧抜装置」という専用機械が待っていました。口径の違いで普通ならはめ込むことのできない車輪と車軸を70トンもの高圧力をかけてドッキングさせることで、絶対に抜けない加工を施します。シリンダーによって高圧をかけて押し込まれた車軸は、車輪の内側からの圧力で密着することになるので絶対にはずれない仕組みが完成するのです。

70トンもの圧力をかけて車輪に車軸を押し込めていく

この日の作業は、車両部で20年以上の経験を持つ下野さんと入社8年目の成田さんが担当しました。「車輪圧入圧抜装置」に車軸を固定したら、クレーンを使って新しい車輪を運んできます。これら一つ一つの機器の操作にも熟練が必要で、すべての機器を難なく操れるようになるには10年以上の経験が必要といいます。車輪を専用台にセットしたら潤滑剤の機能を果たす白亜鉛ペイントを車輪の穴の部分に丁寧に塗り込みます。塗布し終わったら車軸と車輪の中心がぴったり合うように位置を細やかに調整、それでスタンバイOKです。シリンダーがじわじわと車軸を車輪に押し込んでいき、この時の圧力は操作盤のモニターで74トンと示されていました。

車輪も車軸も1000分の1ミリ単位で調整。
そこに熟練の職人技が求められる

この作業に入る前段として、車輪と車軸を圧入できる状態に仕上げておかねばなりません。車輪の内径、車軸の外径とも大変傷つきやすいため、非常に高度な精密加工技術が必要となってきます。車輪・車軸とも旋盤にかけますが、削正する刃先の位置がちょっと違うだけで大きな誤差が生じるため、1000分の1ミリ単位での精緻な作業となります。また車輪はコンピューターによるプログラム加工を施しますが、事前に寸法を測った上でどれくらい削るのかを計算するところから始めなければならないため習熟が欠かせません。いずれの作業も一朝一夕にできるものではなく、経験と熟練の技が求められるといいます。

最後に本日の作業を担当した下野さんと成田さんにお話を伺いました。

機器と向き合う仕事ですが、扱うのは人、技術を伝えるのも人。
だから心を伝えることが技術の伝承につながると思っています。

●車両部 下野さん(左)と成田さん(右)

日頃の作業にどういう心構えで臨んでいますか?

下野:「私たちが扱う台車部分は、普段お客さまから見える部分ではありません。それだけに電車の運行を下支えする役割だと思っています。ただ、足回りは運行に直結する部分。少しでも不具合があれば乗り心地に影響しますし、最悪の場合は事故にもつながりかねません。それだけに絶対に失敗は許されないという気持ちで常に緊張感をもって業務に臨んでいます」

成田:「私はまだ経験も浅いので、下野さんをはじめ先輩方から学ぶ毎日です。機械の扱いはひと通りできるようになったとはいえ、車両や機械によって異なるクセがあるんです。それは経験でしか感知できないので、一日一日の作業で身体に叩き込んでいます」

京阪電車の安全・安心な運行を実現するために、心がけていることは何でしょう。

下野:「私たちが扱う鉄という素材は、気温や湿度によって毎日微妙に変化します。そうした条件の変化を乗り越えて、常に安全で安定した車両状態を維持するよう努めています。車輪で乗り心地や速度までが変わります。お客さまの快適な足であり続けるためにも、『技術の京阪』といわれる車両部伝承の技や精神を、自分ひとりが磨くだけでなく、成田君のような後輩にもきちんと伝えていく。それが明日の京阪電車の安全・安心につながっていくと思います。今では二人のうちどちらに何があってもカバーし合える強い絆も築けています。これからも、『今日より明日』をモットーに研鑽を積み、電車の車両はもとより、ここでメンテナンスをしているひらかたパークの遊具にも京阪の安全・安心のDNAを継承していきたいですね」

成田:「点検に使用する機器に、磁気を当てて内部の見えない金属疲労を調べるものがあります。医療現場の検査機器などと同じで、人が感知できない領域はそうした最新鋭の精密機器がサポートしてくれます。でも、機械を扱うのは人。いくら機械が万能で万全でも、使う人に気のゆるみなどがあれば誤りが生じます。そのことを十二分に心に刻み、作業中は2度3度と確認は怠りません。『だろう』で仕事はしないと心がけています」

2015年11月掲載

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