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こころまち つくろう 活動レポート

[こころまち つくろう 活動レポート Vol.37]職人魂が結集!大津線併用軌道のレール交換。 ~県道に埋められたレール交換工事に密着~

大津線は、見慣れている専用軌道に加えて、併用軌道(道路上に敷設した線路を走行する区間)があります。大津線には併用軌道が2区間ありますが、今回は「びわ湖浜大津駅」から「上栄町駅」の間にある併用軌道で、県道高島大津線に埋め込まれたレールの交換工事を取材しました。専用軌道で行う工事内容と比べ、大きく事情の異なる現場をレポートします。

日本で唯一!3つの顔をもつ車両が走行する京津線

大津線は、京都と滋賀を結ぶ京津線(御陵駅⇔びわ湖浜大津駅)と、琵琶湖畔を南北に結ぶ石山坂本線(石山寺駅⇔坂本比叡山口駅)の2路線の総称で、沿線居住者の通勤・通学路線、京都と比叡山・びわ湖エリアをつなぐ観光路線としての役割を担っています。
京津線の4両編成車両は、京都市内中心部で京都市営地下鉄に乗り入れており、「逢坂の関」で有名な逢坂山では急こう配を走る登山鉄道、そして大津市内中心部では急曲線を抜けて県道を走る路面電車となるのが特徴です。この地下鉄、登山鉄道、路面電車という3つの車両特性を兼ね備えている車両は日本では他に例を見ないため、鉄道ファンの注目を集める魅力にもなっています。

道路に埋められたレール交換工事

このように特色に富む大津線の安全を守るのは、大津営業部技術課。今回のレール交換工事では、工務担当が陣頭指揮を取り、協力会社とタッグを組んで行います。「こころまちレポート」においても、過去に保線作業を取り挙げてきました(こころまち つくろう 活動レポート Vol.11「安心、安全、そして快適な明日をつくるために。」こころまち つくろう 活動レポート Vol.33「電車の安全運行を根底で支える保線業務。」)が、これまでにご紹介した内容と大きく異なるのは併用軌道での工事であること。一般の自動車等が通行する県道での夜間工事となるため、往来する自動車やバイクにも十分注意を払いながら進めなければなりません。

始発までに!時間との闘いが始まった

併用軌道のレール交換は、まず、道路のアスファルトを掘り起こすことから始まります。アスファルトの扱いにも精通しておらねばならず、そのうえで新レールの搬入、掘り起こしたアスファルトの撤去、既設レールの切断と撤去、新しいレールの設置・接続、最後にアスファルトで再びきれいに舗装する、この全工程を最終電車通過後から始発電車運行開始までに完了する必要があります。最終電車が通過した瞬間から、時間との闘いがスタートします。

23:48
最終電車から「最終列車確認書」を受け取り、作業開始

全員で作業前ミーティングを行った後、工務担当の工事監督責任者は上栄町駅に赴き、四宮行の最終電車から始発(5時11分びわ湖浜大津駅発)まで電車がないことを示す「最終列車確認書」を受け取ります。すぐに運転指令所へ電話をかけ作業開始の承認が得られると、現場でスタンバイしているスタッフ全員に号令をかけます。始発に間に合わせるため作業開始合図とともに、県道にカラーコーンを設置して工事エリアを確保する班、上栄町駅にあらかじめ搬入していた新しいレールを運搬機材で移動させる班など各自が機敏に動きだしました。アスファルトを掘り起こす班は、黙々と手作業で掘り始めます。

専用軌道より交換周期が短い併用軌道のレール

冬場には道路の凍結予防のために道路管理者により融雪剤が散布されることがあります。ところが鉄道のレールには微弱な電気が流れているため、融雪剤の塩化カルシウムと反応して鉄の腐食が進むリスクが高まってしまいます。そこで超音波探傷器を使ってアスファルトの中に埋まっているレールの状態を定期的に点検、厳格にチェックします。摩耗や腐食の程度などを考慮して適切な時期に新しいレールに交換することで、鉄道の安全を確保するのが今回の工事の目的です。本来レールは2本で一対のため2本同時に換えるのが理想ですが、始発までの時間制約を考えると25メートルレール1本が適切な作業量となります。

00:40
電車線停電後、いよいよ重機を使った工事に

次に確認するのは、電車線の停電。アスファルトを撤去するのに手作業では時間がかかりすぎるため、停電を待って重機を投入します。停電するまで重機を用いないのは、感電事故を防止するため。0時40分、大津線のすべての電車が車庫に入り停電を確認したあと、本格的な作業が始まります。もしも最終電車に遅れがあったときは重機を使った作業を行えないばかりか、場合によっては工事を中止することも想定しています。ここまでは少しでも早く終われるようにと手作業でアスファルトを掘り起こしていましたが、重機投入により工事は一気に加速します。

01:20
5メートルずつ切断して運び出す

既設レールが姿を現すとボルトを取り外し、トラックで搬出しやすいよう5メートル単位に切断します。切断作業は時間帯を考慮して音の出にくいガス切断機を使用。また、騒音にならないよう全員がほぼ無言で作業を進めますが、必要最小限の合図をしあいながら「あうん」の呼吸で連携プレーが展開されます。
県道を往来する自動車等に気を配りながら重機を手足のように扱い、幾多の工程を同時並行でこなします。難易度の高い作業であるにも関わらず、各々が職人技を発揮して、スピーディに進めていきます。

02:00
搬入した新レールを敷設する

既設レールを取り去ったら、圧縮空気でレール溝の内部や周辺をきれいに清掃。その後、電車やレールの荷重を受けるための金属製の板を等間隔に並べます。そこに電車通過時の振動・騒音低減のためのゴム製の板を重ねてその上に新しいレールを設置します。いくつものボルトでレールの固定が終わると、レールの継ぎ目に電線(軌条ボンド)を溶接していきます。これによりレールに電気を流すことが可能になり、信号機を正常に動作させることができるようになります。

03:00
仮アスファルト舗装し、点検して終了

最後はアスファルトの舗装です。後日、対のレールを交換するときに微調整するためあくまで仮舗装ですが、工事終了直後から自動車等が併用軌道上を通行することを考慮するとおろそかにできないため、完璧に仕上げます。舗装を終えると軌間を点検する測定器でレールの幅や高さに問題がないか念入りにチェック。そして全員が一列に横並びとなって工事区間を歩き、工事で使用した部材・工具などの落とし物や不備がないかを目視点検し、やっとフィニッシュです。工事終了後のミーティングで工程を振り返って問題点がなかったか情報を共有し、計画のすべてを終えたのは午前4時を過ぎていました。

安全のための知見と技術を後進につないでいきたい

工事を終えて、技術課の菊島係長にお話を伺いました

作業者の一糸乱れぬ連携プレーには目を見張るものがありました。

「大津線は営業距離が短いこともあって少数精鋭部隊で保守管理を行っています。そこで、今回のような大がかりな工事では協力会社さんの手を借りて一緒に工事を進めます。皆さん経験と実績を積まれたベテランぞろいですから動きに無駄が一切ない。私も時に勉強になることがあります」

本当に!見入ってしまうほどテキパキとした作業風景でした。

「絶対に始発は遅れさせない。そのプライドと緊張感をもって全員が工事に臨んでいます。実は、軌道を扱うには特殊な技術が必要なのです。非常にハイレベルな技術をもった職人が集まって行うのが保線の工事です。機械任せにできない作業が多い中で、各自がプロの技を発揮しあうので見事な連携が生まれます」

大津線の安全は、熟練工ぞろいの協力会社さんとともに守られているんですね?

「我々とタッグを組む職人さんたちは、熟練工であることに加えて大津線を知り抜いた方ばかり。私たち京阪の保線のプロと一級の職人さんが協力しあって、持てる技術と知恵を結集し、急曲線・急こう配もある厳しい環境での大津線の安全を守っています」

工務担当が担う安全管理に関して抱負をお聞かせください。

「車両や駅・信号系統の業務では、どんどんデジタル化が進んでいます。でも保線を中心とする工務の仕事は、使用する機材は変わっても100年前からやることはほぼ変わっていないと感じています。なぜか?線路の構造が100年間ほぼ変わらないからです。私はこれまで線路の設計をしてきましたが、電車の荷重をレールと枕木が受け止め、それを道床バラスト(砕石、砂利)が分散させる、この構造はシンプルですが実によく考えられています。進化する余地のないくらい洗練されている。鉄道の安全を守るために重ねてきた時間の中で、継承されてきた京阪ならではの英智や技術が数多くあります。そうした先人の技や知見を次の100年後にもきちんと継承していくこと。それが我々の使命だと思っています」

大津営業部 技術課 菊島係長

「口伝」の話に通じるような、仏像作りや宮大工さんにも少し似た世界なんですね!?

「飛鳥時代の木造建築物の保守と比べると歴史の長さが違いますが(笑)、脈々と受け継ぐ技術を伝える意義は同じですね。こちらは、いわば鉄の職人です。一方で、私たち大津営業部技術課は少数部隊です。一人一人がいろんなことに対応できなければならないため、資格や技術の習得にも日々尽力しています。技術課工務担当の係員全員がアーク溶接作業者、ガス溶接作業者の資格を取り、レールが折損した場合にもすぐに復旧できるよう、いざという時に備えています」

大津線:安全・環境への取り組みについて

2015年に、上栄町駅付近の急曲線(併用軌道部)において軌道のブロック化を実施しました。コンクリートブロック製の頑丈な軌道構造に更新するとともにレールの重量化や軌道線形を修正することにより、走行時の安全性をより高めています。また、軌道が道路を横断する部分を、黄色のカラー舗装で明示することにより、自動車や歩行者との接触事故防止を図っています。
また、急曲線の多い大津線の対応として、レール散水装置を技術課で考案。車輪とレールの摩擦力を減らし、キシリ音(電車騒音)の低減をはかることで環境にも配慮しています。

2018年12月掲載

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