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こころまち つくろう 活動レポート

[こころまちつくろう 活動レポート Vol.34]乗った瞬間から旅がはじまる『ひえい』デビュー。~叡山電車にシンボリックな観光用車両が新たに登場~

京阪グループの叡山電車に新たな観光用車両『ひえい』が登場しました。この新型車両は、京都中心部から気軽に行ける身近な自然空間「八瀬・比叡山」への旅にシンボリックな彩りを添え、比叡山とびわ湖を巡る観光ルート『山と水と光の廻廊』の活性化にも寄与することが期待されています。大胆で斬新なデザインで、デビュー前から話題を集めてきた『ひえい』。これまでの電車のイメージを破るその魅力に迫ります。

きらら

ひえい

観光用車両のパイオニア

現在では多くの鉄道会社が観光用車両を取り入れていますが、叡山電車はいわばそのパイオニア的存在。1997年には鞍馬線に紅葉や山の絶景をパノラマで鑑賞していただく展望列車『きらら』をデビューさせています。今回はそれから21年ぶりに、出町柳駅から八瀬比叡山口駅を結ぶ叡山本線に『ひえい』が登場。特別料金は不要で、運賃のみで非日常感が味わえるのもうれしい魅力です。

京都・洛北の旅に
新しい価値を創出するミッションからはじまった

『ひえい』誕生のきっかけは2014年にさかのぼります。その頃、京阪グループでは京都の市街地・洛中とは違う魅力に富む洛北エリアの活性化をテーマに、新たなプロジェクトの検討をスタートしていました。お客さまにもっと楽しんでいただける電車のあり方や、新しい京都の魅力創造を試行錯誤する日々。その過程で、比叡山への京都側出入り口である叡山本線に観光用車両を導入するアイデアが生まれたのです。しかし、新たな観光のシンボルとなるような画期的な車両を生み出す道のりは平坦ではありませんでした。

構想4年、様々な困難の末に
ハンドメイドで仕上げた逸品

まずは観光の起爆剤となるような、他にはないデザインの追求に1年半を要しました。実際に製造段階になると、今度はインパクトのある意匠でありながら安全性を確保するための多くの課題が待ち構えていました。車両の改造は川崎重工業兵庫工場で担当いただきましたが、叡山電車としてのこだわりを伝え、議論しながら造りあげたのが『ひえい』です。とくに楕円のループをつけることで運転席の視界が遮られるのを防ぐため、運転台を中央寄りに移設。スイッチ類の配置も見直して操作性を向上させたほか、ワイパーの形状も一から見直すなど『ひえい』ならではの美と安全を同時にかなえる工夫が随所に重ねられました。

デザイン面において一番注力したのは、やはり外観を飾る楕円部分でした。鉄を何度も叩いては延ばし、整える作業を繰り返して仕上げる手間のかかる工程。その製造方法は新幹線の長いノーズの部分と同様に非常に手の込んだ作業で、匠の技だけが可能にする100%のハンドメイドです。もちろん楕円の部分だけではなく車両のボディ全体、独特の楕円の窓などにも職人の経験と技が余すところなく活かされています。

「比叡山」「鞍馬山」からヒントを得た美しい車両デザイン

『ひえい』は、叡山電車の2つの終着点にある「比叡山」と「鞍馬山」の持つ荘厳で神聖な空気感や深淵な歴史、木漏れ日や静寂な空間から感じる大地の気やパワーなど、「神秘的な雰囲気」や「時空を超えたダイナミズム」といった概念を「楕円」というモチーフで大胆に表現したのが特長です。デザイナーが両山をくまなく歩き、着想を得たデザインで、外観側面に配されたストライプは、比叡山の幾重にも重なりあう美しい山霧をイメージしています。
また、ロゴマークの「スピリチュアル・エナジー」は、大地から放出されるパワーと灯火を抽象化。比叡山延暦寺の根本中堂にある1200年以上も灯り続ける「不滅の法灯」に代表されるように、灯火も、パワーある“気”も、霊峰・比叡山を象徴するものです。『ひえい』に乗車した時から比叡山そのものに抱かれているような不思議な居心地のよさに導かれます。

外観の楕円とリンクしたシックで優雅な内装デザイン

■中央立ち席
車内中央部には立ち席スペースが。大きな楕円窓からはダイナミックな眺望が楽しめます

一歩車内に足を踏み入れると、驚くのがその開放感。外観にあしらわれた楕円とリンクするスタンションポールや袖仕切が、外から内へと続く絶妙な一体感を生んでいます。深い緑を基調とした化粧板に加え、側壁のフラット化などによって全体がすっきりとした印象に。LEDダウンライトの効果もあってホテルのロビーラウンジのような居心地の良さを創りだしています。座席は着席スペースを明確にしたバケットシートを採用。座席幅(525mm)、奥行(560mm)、角度(15度)いずれも広めのサイズで、ヘッドレストも設置し、ゆったりとした座り心地を実現しました。

■バケットシート
シートデザインにも比叡山の意匠を活かしています

■袖仕切
座席の端部には大型の袖仕切を設置。万が一の衝撃時に備え、着席されるお客さまの安全性を向上

■スタンションポール
楕円をイメージしたスタンションポールは立っているお客さまの姿勢保持にも配慮

どのお客さまにもやさしいつくりに

『ひえい』は、近年増加する海外からのお客さまへの対応として外国語の案内も充実させています。車外の行先表示器、車内の案内表示器とも英語、中国語(簡体字)、韓国語、日本語の4ヶ国語で表示。また優先座席は、茶色のヘッドレストを採用するとともに直上の吊り手を長くして色を変えることで識別を容易に。八瀬比叡山口側のドア付近に車いす・ベビーカースペースを設けるなど利便性にも細やかにこだわったつくりになっています。

■優先座席
ピクトサイン、茶色のヘッドレストや長い吊り手で識別を容易に

■車いす・ベビーカースペース
八瀬比叡山口側のドア付近のいすは折り畳み式でバリアフリーに対応

■車内案内表示器
行先案内を英語、中国語、韓国語、日本語の4ヶ国語で表示

3月21日ついにデビュー!新しい歴史の幕が開いた

春の慈雨に恵まれた春分の日、『ひえい』デビューの日がやってきました。当日は「披露式典」が華々しく開催され、来賓の方々のご挨拶やテープカットなどが晴れやかに執り行われました。式典には沿線内外から多くのお客さまにお越しいただき、皆さまからの大きな歓声に包まれて『ひえい』は出町柳駅を出発しました。終着駅の八瀬比叡山口駅では、地元・修学院中学校吹奏楽部の皆さんが素敵な演奏で『ひえい』をお出迎え。こうして沿線住民の方々をはじめ、多くの皆さまの温かな想いに見守られて『ひえい』は比叡山観光の新しい未来へと走り出しました。

「比叡山へは『ひえい』に乗って」
そんなブランド価値を持つ存在に育てていきたい

『ひえい』の魅力と、これからの抱負について叡山電鉄 鉄道部の中西喜芳営業課長にお話を伺いました。

デザインの斬新さについ目が惹きつけられますが、乗り心地もすごくいいですね。

「鞍馬線の『きらら』が沿線の雄大な景観をたっぷりと楽しんでいただく、いわば外の世界を満喫する電車なのに対して、『ひえい』が走るのは住宅街を抜ける叡山本線。出町柳駅から八瀬比叡山口駅までの乗車時間はわずか14分です。そのため景観を楽しむ電車というよりは、乗ること自体を楽しみ、旅の非日常感を感じていただけるような工夫を凝らしています。そういう意味で内装や乗り心地には細やかにこだわりました。」

乗っていてすごく静かだったのが印象的でした。

「窓の構造を変更したため、両壁とも従来の車両より厚みのある構造になっています。そのおかげで外の騒音も届きにくくなったので、より車内の雰囲気を落ち着いて楽しんでいただけると思います。」

壁が厚くなったぶん車内のワイドは狭くなっているはずなのに広く感じますね?

「外の楕円と一体化したデザインと荷物棚や天井のデザインに統一感を持たせ、スッキリとさせています。多くの方に広く感じるとお褒めいただいております。」

■叡山電鉄 鉄道部 中西喜芳営業課長

魅力いっぱいの『ひえい』ですが、中西さんがおすすめされる「ひえい」ならではの楽しみ方を一つだけ挙げるとしたら何でしょうか?

「楕円の窓を通して見る外の景色を、ぜひご覧いただきたいですね。お寺などにある円窓と同じように、そこだけが切り取られた風景のように見えるんです。座席に座って流れていく楕円窓の景色を眺めていると美術館で風景画を鑑賞しているような錯覚を覚えます。それは『ひえい』でしか体験できない外景の楽しみ方だと思います。」

最後に今後の抱負をお教えください。

「当社は、もともと1925(大正14)年9月27日に霊峰・比叡山への参拝アクセスとして営業を開始した鉄道会社です。ですから今回の『ひえい』の誕生は、当社にとっては原点回帰。比叡山観光への京都側からのルートが『ひえい』によって活性化し、“比叡山に行くなら『ひえい』で”と思っていただけるような車両に育てていくことが目標です。そのためにも、乗ることに価値を見出していただけるオンリーワンのデザイン性、記憶に残る居住性、安心してご乗車いただける安全性を体現したつもりです。もちろん沿線のお客さまや通勤・通学などでご利用のお客さまにも末長く愛される存在になれたら…と願っています。『ひえい』を運行する叡山電車があるから左京区が好きと思っていただけるくらい、地域や住民の方に貢献できるよう尽力したいです。電車や駅が単なる移動手段で終わらず、地域の活性化やコミュニティの発展に寄与できるよう、『ひえい』の登場をきっかけに心新たに全社員で取り組んでいきたいと考えています。」

2018年3月掲載