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こころまち つくろう 活動レポート

[こころまちつくろう 活動レポート Vol.18]地域と共生するホテルをめざして。 ~Part2. 食を通じて琵琶湖の環境を守る~

前回は京都センチュリーホテルでの「ホテルから発信するホスピタリティ最前線」をご紹介しましたが、今回は「食のホスピタリティ」についての取り組みをお伝えします。琵琶湖を目前に雄大な比叡、比良の山々を眺めるロケーションにある琵琶湖ホテルは、2002年から「里山の食彩」という環境保全をテーマにした食文化キャンペーンを展開しています。美しい琵琶湖の自然を次世代へ継承するための新しい挑戦。食を通じた環境との共生スタイルをご紹介します。

「食べることが守ること」をスローガンに里山環境の保全に努める。

ビワコオオナマズやビワマスなど貴重な固有種を多く育む琵琶湖は、自然豊かな生態系を築きながら、すぐ側に人々の暮らしも共存する、世界にも類を見ない湖です。人々は数千年前から山を切り拓き、雑木林に手を入れ、棚田をつくり、水辺に集落を形成してきました。しかし近年の生活文化の激変はこの地にも及び、昔ながらの自然環境を保つのが難しくなっています。里山を守っていくために、琵琶湖ホテルでは昔から伝承されていた棚田米や地元野菜を食材として積極的に採用することで、持続可能な環境活動を行っています。ホテルでの取り組みについて、前田義和副総支配人と企画室の真﨑友香さんにお話を伺いました。

「里山の食彩」の活動を始められたきっかけを教えてください。

「湖西には昔から美しい棚田が多く見られました。しかし山の斜面の複雑な地形を利用する棚田は手作業に負う部分が多く、大変な手間がかかります。後継者不足も手伝って近年は存亡の危機に立たされていました。生産者は高齢化し、コストの高い棚田米は販売力を落としていくばかり…。このままでは棚田が消えてしまう。そして、それは農業だけの問題にとどまりません。棚田は山の斜面にあって洪水や地滑りの防止に役立ち、水中動物や昆虫を多様に育んで豊かな生態系形成の一翼を担っています。琵琶湖に多くの恵みをもたらす棚田を守るために、ホテルとしてできることはないかと模索したのが出発点でした」

日本の棚田百選に指定される地区で穫れた棚田米をお客さまへ提供。

棚田を守ることで地域の農業と環境をともに守るのですね?

「そうです。もちろんホテルですからお客さまに喜んでいただくことが前提ですが、棚田米は素晴らしくおいしいと思います。粘土質の土壌、斜面ゆえの寒暖差などが作用して甘味と粘りの強い風味が魅力です。機械や農薬に余り頼らない減農薬であることと山から流れる清らかな水で栽培するので安心感もあります。琵琶湖ホテルでは『日本の棚田百選』に指定されている高島市畑地区と大津市仰木地区の農家と専属契約をして、お客さまにおいしい棚田のお米を提供しています。ホテルの従業員が田植えと収穫を体験する活動も10年以上続けており、棚田の価値や生産者の皆様の尊い姿勢を感じています」

企画室 真﨑友香(まさきゆか)さん

真﨑さんも田植えを初めてされたとか?

「はい。初めてということもあり半日だけお手伝いさせていただきましたが、それでも足腰が当分痛くて…。農家の皆様のご苦労が身にしみました。でもその苗が育ち、実った新米が収穫された時は感激もひとしおでした」

レストランでは炊きたてのごはんのほか、棚田米から造った限定地酒もご用意。

棚田米はホテル内のどのレストランで味わえるのですか?

「ホテルとして年間20tを納入していますので、年中召し上がっていただけます。仰木地区からは『きぬひかり』『日本晴』が、高島町畑地区からは『こしひかり』が届きます。風味に合わせて好適米をそれぞれ日本料理、お寿司、鉄板焼、洋食レストランに選り分けています。また、地元の造り酒屋である福井弥平商店様にご協力いただいて、棚田米で造る地酒『萩の露 里山』も誕生しました。こちらの清酒も琵琶湖ホテルのスタッフが田植えから新米の収穫、そして収穫した棚田米を使った日本酒の醸造まで携わらせていただいた思いのこもったお酒です。通常は粒の大きな酒米・山田錦で造るところを小粒の棚田米をあえて使用し、苦労の末、醸造されたとても美味しいお酒として大好評です」

生産者の方々を守り、琵琶湖を取り巻く美しい環境を次世代へ大切につないでいく。

前田義和(まえだよしかず)副総支配人

今後の展望をお聞かせください。

「棚田米をはじめとして地元産食材を積極的に提供する取り組みは、ホテルご利用のお客さまからも高い支持をいただいています。今後はさらに扱う食品目を充実させることで幅広く地元産業と生産者の皆様を支援し、里山と伝統的な食文化のサポートにつなげていきたいです。お客さまが食を楽しむことで環境に寄与できる、ホテルならではの『しくみ』を強固にしたいです。また、2009年からは『山野草プロジェクト』という棚田の畦道になぞらえた自然環境をホテルのボードウォークに再現する計画にも取り組んでいます。一説にはアマゾン以上の生態系が息づくとされる棚田の畦、その豊かな環境をホテルでも感じていただくプロジェクトで現在の植栽は約130種に及びます。この取り組みは2010年に㈶都市緑化基金の『生物多様性保全につながる企業のみどり100選』にも選ばれました。ホテルから発信する環境活動とお客さまサービスが両立できる新しいビジネスモデルを構築していけたらと考えています」

エピローグ

琵琶湖ホテルはISO9001のほかにISO14000という環境保全に資する企業に与えられる規格も取得しています。環境や食文化を守る活動とお客さまサービスを両立させる取り組みは、環境・人・伝統食を大切にするこころをつなぐ「こころまち つくろう」の精神そのものが現われています。